「井戸」で汲み上げるものといえば、みなさんは何を思い浮かべますか?
真っ先に「水」を思い浮かべる方が圧倒的に多いのではないでしょうか。

実は水以外にも、私たちの暮らしに欠かすことが出来ない地下資源の汲み上げや、災害に向けて情報を提供するために利用されている井戸が存在することをご存知でしょうか?

今回は、井戸がどんな地下資源が汲み上げ、さらにどんな情報を提供してくれているのかをご紹介いたします。

汲み上げる資源は様々な井戸の種類

水以外のものを汲み上げている井戸の代表的なものとしては、以下のような種類があります。

・温泉井
・地熱井
・石油井
・地震観測井

このほかにも、天然ガス生産用のガス井、地盤沈下を抑えるため直接帯水層に水を注入するための注入井などもあります。
これらの井戸は、私たちの暮らしを支えてくれている地下資源を汲み上げるほか、暮らしを守るために必要な情報を手に入れるために利用されています。

これらの代表的な井戸をさらに詳しくご紹介します。

意外と曲者な温泉井

温泉井は、その名の通り温泉のお湯を汲み上げることを目的として作られている井戸です。
温泉井の深さは500m程度のものから、1,000m以上になるものもあります。

温泉井の場合、深く掘ることが多く、大掛かりな工事が必要になります。
また、お湯の量や成分、温度、溶け込んでいるガスの有無は、温泉によって異なるため、一般的な「井戸ポンプ」ではなくそれぞれの温泉に対応した「源泉揚湯ポンプ」で汲み上げます。

さらに高温のお湯やガスの成分の影響でトラブルが発生しやすいため、保守管理をきちんと行う必要もあり、一般的な井戸よりも管理が大変です。

ちなみに、温泉の採取は温泉法によって細かい規定が定められていますので、採取する際はきちんと確認する必要があります。

新たな電力源として注目を集める地熱井

地熱井は、地熱を電力として使うための地熱発電用の井戸になります。
井戸の深さは2,000m前後と深い事が多い上に、熱い蒸気や熱水の噴出、有害物質の流出対策なども必要なため、設置にはかなり高度な技術が必要になってきます。

地熱井を用いた電力発電の仕組みを簡単に説明すると、地熱井で地下にたまった蒸気や熱水を取り出し、それらを利用し電気を発生させます。
さらに、発電後の蒸気や冷めた水は地下に戻しマグマの熱で再び加熱させることで、蒸気や水を繰り返し利用できる仕組みの発電です。
再利用が可能な上に、有害物質をほぼ発生させず非常にクリーンなエネルギーとされています。
そのため地熱井は新たな電力源として、今後ますます注目が集まってくると考えられています。

深さNo.1の油井


油井とは石油を汲み上げるための井戸で、地表からとても深く掘られていることが特徴です。
その深さは3,000mにもおよび、中には6,000mを超える石油井もあります。

油井の掘削には、ロータリー式掘削装置が基本的に用いられています。
また、最近ではより深い地層における掘削や、傾斜掘削・水平掘削、マルチテラル坑井などの複雑な掘削も行なわれるようになっています。

ちなみに日本では数が多くない油井ですが、新潟県新潟市にある石油の里には新津油田の産業遺産が残されているそうです。

地域の暮らしを守る地震観測井

地震観測井は深さ150m〜340mの深さの井戸で、地下水位を観測しています。
最近では3,000mなどかなり深い井戸での観測も進められています。

「井戸と地震にどんな関係が?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は過去の地震の前後に「井戸水が枯れる」「井戸水が濁る」などの現象が報告されているのです。
このような現象が起きるのは、大きな地震の前に地面・プレートにひずみが起こり、地下水の水位が変化すると考えられているためです。
井戸水の変化の観測は地震予知などの研究にも貴重なデータとなっているようです。

この観測データは「産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門」のHPで毎日1回更新されていますので、ご興味のある方はアクセスしてみてください。

こうして見ると、井戸は水を汲み上げるだけでなく、地中に眠る地下資源と私たちの暮らしを結びつける役割を果たすための大切な役割を担っていることがわかりました。
井戸は昔から人々の生活を支えるために大切にされてきましたが、実は現在の方が昔以上に私たちの生活を支えてくれているのかもしれませんね。