
川や池を覗き込むと、水の中を泳ぐ小さな生き物たちを観察することができます。この小さな虫たちは、水のきれいさを教えてくれる、いわば「自然のリトマス紙」のような存在です。
見た目は地味だったり不思議な形をしていたりしますが、そこには水環境と深くつながった暮らしぶりがあります。
今回は、水の中で暮らす代表的な昆虫たちと、水質とのつながりについて解説します。
水生昆虫とは?
水生昆虫とは、水の中で一部または全部の生活を送る昆虫のことです。種類は豊富ですが、ここでは特に有名で観察しやすい3種類をご紹介します。
タガメ:田んぼの王者だけど絶滅危惧
タガメは日本最大の水生昆虫で、成虫の体長は5cm以上です。
強靭な前脚で小魚やオタマジャクシを捕食する姿はまさにハンターですが、現在は絶滅危惧種に指定されていて、見かける機会が激減しています。
きれいな水を好み、農薬や開発による環境変化の影響を強く受けやすい生き物です。
ゲンゴロウ:泳ぎが得意な水中の丸い戦士
丸い体でスイスイ泳ぐゲンゴロウは、種類によって大きさも生態も異なりますが、水田や沼地など比較的静かな水域を好むのが特徴です。
タガメと同様、肉食性で他の生き物を捕まえて食べる力を持っています。
こちらも水質が悪化するとすぐ姿を消してしまいます。
ヤゴ:トンボの赤ちゃん
川や池の底でじっとしている「ヤゴ」は、トンボの幼虫で、種類によって好む水質が異なります。
例えば、ギンヤンマのヤゴは水のきれいな池でしか育たず、アカネ類のヤゴはやや濁った水にも適応できるなど、ヤゴを見ればその水の状態をある程度把握できます。
水質と水生昆虫の関係
水生昆虫は、環境の変化に非常に敏感です。
目に見えないレベルの汚れでも、彼らの暮らしには大きな影響を与えます。
水質が悪化すると「きれい好き」な虫は消える
例えば、BOD(生物化学的酸素要求量)という指標がありますが、これは水中の有機物を微生物が分解するのに必要な酸素量のことです。
高ければ高いほど水質は悪いという判断になり、BODが高い水域では、酸素が不足するため、水中で呼吸するタイプの水生昆虫は生き残りにくくなります。
タガメやゲンゴロウのように、酸素が豊富な場所を必要とする種はまず姿を消す一方で、汚れた水にも耐えられるユスリカの幼虫のような虫たちは逆に増えていきます。
水質のバロメーターとして使われる「水質階級」や「指標生物」
環境省や各自治体では、「水質階級」や「指標生物」という形で水生昆虫の種類と分布を調査しています。
きれいな水にしか生息しない虫、ややきれいな水なら生息できる虫、やや汚い水でも生きられる虫、かなり汚れていても生きられる虫というように分類され、水質評価の目安にされているのです。
水生昆虫が減ることによる影響
水の中で暮らす虫が減ると、単に「虫がいない」だけでは済まされず、その影響は生態系全体に広がっていきます。
魚がいなくなる、鳥が来なくなる
水生昆虫は多くの淡水魚の主食で、特に稚魚にとっては水中の小さな虫たちは重要な栄養源です。
そのため、水生昆虫がいなくなると魚も育ちません。
魚が減ると、それを食べるサギなどの鳥も来なくなり、地域の自然がどんどん空洞化していきます。
食物連鎖が壊れていくスパイラル
水生昆虫は食べる側でもあり、食べられる側でもあるため、この両面のバランスが崩れると、他の生き物にも影響が広がります。
例えば、ユスリカのような汚れた水でも生きられる虫が増えると、それを食べる生物ばかりが増えてしまい、生態系全体が偏ってしまうのです。
多様性が失われると、ひとたび災害や異常気象が起きたときに、自然の回復力が弱くなるというリスクもあります。
昆虫に注目して子どもと一緒に環境について考えよう
水の中で暮らす代表的な昆虫たちと、水質とのつながりについてご紹介しました。
小さな川や池を覗いてみて、どんな虫がいるのかを観察するだけで、今の自然環境の状態がある程度わかるのです。
大人だけでなく、子どもも虫取り網を片手に生き物を探す体験を通じて、水の大切さを体で感じられるでしょう。もし、「あれ?昔はいた虫がいない」と気づいたら、それは水環境が変化しているサインかもしれません。
ぜひ親子で川や池に足を運んで、生き物の姿をヒントに環境について一緒に考えてみて下さい!