江戸時代、毎年夏の風物詩として行われていたのが「井戸浚い(さらい)」です。
江戸の街に住む庶民たちが毎年一斉に行っていた井戸浚いという行事は、具体的にどういった内容でどのような意味を持っていたのでしょうか?

今回は井戸と水に関する知識を深めるため、江戸時代の井戸システムと井戸浚いについて豆知識をご紹介します。

「井戸浚い」とは?

「井戸浚い」は、江戸時代に行われていた庶民たちの行事の一つです。井戸浚いとは、要するに「井戸の大掃除」のこと。井戸の水をできるだけ出したあとで、底に溜まったゴミを取り除きます。その後、井戸の内側をきれいに洗浄していたそうです。
当時の江戸には、井戸浚い専門の職人も多くいて、毎年7月7日になると江戸中で一斉に井戸の掃除が行われていました。

深い井戸にもぐって作業をするとなると、専門の職人といえどもそれなりのリスクが伴うものです。
「なぜ一斉に作業していたの?」という疑問を抱きがちですが、当時の江戸の井戸は地下ですべてつながっていたから。江戸の街にはすでに大規模な水供給用のシステムが敷かれており、近隣の川から上水が引かれる仕組みになっていました。

江戸で暮らす庶民たちは、そうして供給された水を得るための場所として井戸を活用していたのです。
ちなみに当時の井戸は、近隣住民と共同で使ういわば公共施設のようなものでした。このため、当然井戸浚いもその井戸を使う人々が協力して行っていました。「美味しい水を飲み続けるための、年に1度のメンテナンス」と考えられます。

すべての井戸が地中でつながる仕組みであったため、街中の井戸を一斉に掃除しなくてはあまり意味がありませんでした。
水が運ばれる途中に汚れた場所があれば、その先の部分の水はもれなく汚染されてしまいます。住人全員が安心・安全な水を得るためには、井戸システム全体の大規模清掃が必要だったと考えられます。
また、井戸浚いは決して簡単な作業ではありません。だからこそ、年中行事の一つとして一斉にやってしまおうと考えたのかもしれません。

そして「いったいなぜこの時期に行っていたの?」という点ですが、七夕の後にやってくる盆に向けた準備の一つだったという説があります。
また、本格的な夏が到来すれば、伝染病が蔓延するリスクもあります。井戸浚いは、水を介して疫病が広がるのを防ぐための予防策であったとも伝えられています。
江戸時代の水道については井戸ポンプ情報局で、過去にも取り上げていますのでそちらもご覧ください。(江戸時代に水道が使われていた?「水道井戸」「水道桝」とは)

「井戸浚い」は現代でも行われている?

井戸の底に溜まった汚れを掻き出し、きれいにするための「井戸浚い」は現代においても行われています。長年井戸を使っていると底部分に泥やゴミが溜まり、思うようには水を吸い上げられなくなってしまうケースがあります。このような場合に行われるのが、井戸浚いです。

また、「庭に古い井戸があるものの、すでに使えなくなっている。なんとか復活させたい」という場合に井戸浚いが行われるケースもあります。内部をきれいにすることで、井戸が復活する可能性は十分にあるでしょう。

現代で井戸浚いを行う場合、「井戸の中にもぐって作業を行う」方法の他にも、「専用の道具を使って外から汚れを取り除く」という手段も選べます。
江戸時代と同じく、井戸の中にもぐって作業をするのには危険も伴います。できれば専門の業者に依頼し、専用の道具を使って外からきれいにしてもらう方法を選択するのがオススメです。

井戸浚いはどこに依頼すれば良い?

井戸浚いはどこに依頼すれば良い?
江戸時代には、庶民たちが協力して行っていた井戸浚い。専門の職人もいたようですが、人手が足りなければ住人自ら井戸の中に入って作業することもあったようです。とはいえ、現代の井戸浚いにおいてこの方法を選択するのはやめておきましょう。

深い井戸の中にもぐって作業することには、酸欠などのリスクが伴います。また古い井戸であれば、途中で壁面が崩落してしまう可能性もあるでしょう。
見た目には大丈夫そうに見えていても、思わぬ事故に遭遇するリスクがあります。安心・安全に井戸を復活させるためには、やはりプロに依頼するのが得策です。

現代の井戸浚いは、井戸ポンプ等を扱っている専門の会社に依頼することが可能です。井戸に関する相談に対して、プロ目線で総合的にアドバイスしてくれるでしょう。井戸の状態によっては、たとえ井戸浚いをしても思うような効果が得られない可能性もあります。この場合、井戸をさらに掘り進めたり、古い井戸を諦めて別の井戸を掘ったりする方法があります。

専門家と相談しながら決定すれば、後悔のない選択ができることでしょう。「井戸水をどのように使いたいと思っているのか?」という点を踏まえた上で、自分たちにとってより良い選択をしてみてください。

古い時代から私たちの生活に根付いていた井戸

江戸時代の井戸浚いは、水道システムを快適に使い続けるための大切な行事の一つでした。江戸の街中で井戸の掃除が行われる様子は、さぞ圧巻だったことでしょう。近代的な水道システムが整備された現代において、江戸時代のような井戸浚いが行われることはありません。

とはいえ、水を快適に使い続けるために周辺設備の清掃・メンテナンスは重要なもの。江戸時代の「井戸浚い」に倣って、1年に1度の状態チェックや清掃、メンテナンスを心掛けてみてはいかがでしょうか?