井戸とは、古い時代から私たち人間の生活を支えてくれている設備です。日本だけではなく、世界のさまざまな場所に歴史ある井戸は数多く残されています。
そのなかでも今回紹介するのは、インドの世界遺産「ラーニー・キ・ヴァーヴ」についてです。
「井戸が世界遺産になるなんて!?」と不思議に思うのも、もっともなこと。ラーニー・キ・ヴァーヴの魅力や特徴に迫ってみましょう。

ラーニー・キ・ヴァーヴとは?

ラーニー・キ・ヴァーヴは、インド西部に位置するグジャラート州のパータンという都市にあります。ラーニー・キ・ヴァーヴを日本語に翻訳すると、「女王の階段井戸」。パータン郊外を流れるサワラティ川の岸辺に作られています。
インドには古い井戸が数多く残されていますが、世界遺産に登録されているのはラーニー・キ・ヴァーヴのみ。なぜこの井戸だけが特別なのかというと、古い時代の建造物でありながら非常に良い状態で発見されたからです。

ラーニー・キ・ヴァーヴが作られたのは11世紀のことだと伝えられています。
13世紀ごろにはサワラティ川の氾濫によって地中に埋没し、本格的に発掘されたのは20世紀に入ってからでした。ユネスコ世界遺産に登録されたのは、2014年のことです。以降、世界中から多くの観光客が訪れています。

ラーニー・キ・ヴァーヴは生活に必要な水を管理するための場所であると共に、水の神聖性を高める寺院としての機能も持ち合わせていました。
このため、階段井戸内には非常に繊細な彫刻が数多く施されています。シヴァ神やガネーシャ神など、インドの信仰に欠かせない神々の姿が建築当時の姿のままで楽しめるスポットです。
井戸内に残る彫刻の数は大小合わせて1,500以上。一歩足を踏み入れれば、まるで地下神殿に迷い込んだような神聖な気分を味わえるでしょう。

ラーニー・キ・ヴァーヴを見に訪れるなら、まずパータンという都市を目指して移動するのがオススメです。アーメダバードから車で約2時間半のところに位置しています。
インドの信仰や見どころについてより深く楽しみたいときには、ガイドを活用するのもオススメです。

階段井戸とはどんな井戸?

日本で「井戸」といわれれば、比較的小さめの深い穴をイメージする方が多いのではないでしょうか? ロープで結んだ桶を下ろし、水をくみ上げるスタイルが一般的でした。
しかし、インドの井戸は日本と異なるシステムを採用しています。
地下に向けてどんどん階段を伸ばしていくことで人々が地底に下り、そこから水を汲んで上るという方式になっています。

ちなみに、ラーニー・キ・ヴァーヴは7層構造の階段井戸です。水をくみ上げるためには、7層もの階段を移動しなければいけません。
「水だけを移動させる日本方式の井戸の方が効率的なのでは…?」と思ってしまいがちですが、階段井戸が発達したのにはきちんとした理由があります。その一つがインドの気候です。

乾季と雨季に分かれるインドでは、乾季の水不足や干ばつは非常に大きな問題でした。
1年を通じて安定して水を確保するため、工夫の末に作られたのが階段井戸です。インドにはラーニー・キ・ヴァーヴ以外にも数多くの階段井戸が残されていますが、その多くは乾燥地域に位置しています。
地下深くまで掘られた階段井戸を下っていくと、暑い時期でもひんやりとした空気が漂っています。避暑や休憩のための場所としても活用されたと伝わっています。

ラーニー・キ・ヴァーヴ以外にも見どころはたくさん!

インドには、ラーニー・キ・ヴァーヴ以外にもたくさんの階段井戸が残されています。階段井戸の歴史や文化に興味を持ったら、他の階段井戸についても調べてみてください。

たとえばアーメダバードという都市にあるダーダ・ハリ階段井戸は、ダーダ・ハリ王妃によって造られたもの。1485年のことでした。地下5層構造になっている建造物は、王妃の墓としても機能しています。ラーニー・キ・ヴァーヴとセットで楽しんでみるのも良いでしょう。

8世紀から9世紀にかけて建造されたチャンド・バオリの階段井戸は、世界最大規模の井戸としても知られています。地下13層もの構造になっていて、階段数は3,500段。水を汲んで上がるだけでも一苦労だと言えるでしょう。
チャンド・バオリの階段井戸は、近隣にあるハーシャットマタ寺院とセットで楽しむのがオススメです。神聖な雰囲気をより一層感じ取れるのではないでしょうか。

このほかにも、アダラジヴァヴやスーリヤ寺院の階段井戸は荘厳な雰囲気や繊細な彫刻を楽しめる建造物です。
また、インドの大都市デリーにも階段井戸は残されています。アグラーセン・キ・バオリは、映画の撮影にも使われるなど人気観光地の一つです。機会があればぜひ訪れてみてください。

インドの階段井戸が教えてくれる「水」の大切さ

インドの階段井戸が教えてくれる「水」の大切さ
現代を生きる私たちにとって、「水=蛇口をひねって出てくるもの」というイメージが強いのではないでしょうか。井戸水を活用するご家庭も増えていますが、「自動ポンプでくみ上げた水を、蛇口から出す」というスタイルが一般的です。
とはいえ、これは「井戸」や「水道設備」の進化によるもの。古い時代に作られた井戸を見れば、その歴史の流れを感じ取れるでしょう。

「一年を通じて、安定して水を得る」ということは、決して簡単ではありません。非常に大きく、また宗教施設と密接に関わっている階段井戸からは、私たち人間にとって水がいかに大切なものか学べるはずです。

インドの世界遺産ラーニー・キ・ヴァーヴも、そんな井戸の歴史を感じさせてくれるスポットの一つです。気軽に海外旅行に出かけられるようになった際には、ぜひ現地を訪れてみてはいかがでしょうか? 荘厳かつ美しい風景に、圧倒されることでしょう。