ビールの品質と風味には、「水」が大きな役割を果たしており、その質が醸造プロセスに多大な影響を与えます。
今回は、ビールの原料の一つである水の重要性や、ビール造りに適した水、そして地域ごとに異なる水質が生み出すビールの種類の違いについてご紹介します。

ビールの原料としての水の役割

ビールの原料には「水」、「麦芽」、「ホップ」、「酵母」の4つが主に使われ、なかでも全体の90%近くを占める水は、ビールの風味や香りに重要な影響を与えます。
ビールの成分としてだけでなく、製造過程で加えられる水が酵母や酵素に影響を及ぼし、発酵の進行やビールの香りや味わいに結びついています。

ビール造りに適した水とは?

水には硬水と軟水があり、これは水中に含まれるカルシウムやマグネシウムの量で決まります。
硬水はミネラル成分が多く、麦芽の甘さを引き立てるラガーや、ホップの苦味が強調されるIPAなどに向いています。反対に軟水は成分が少ないため、ピルスナーやライトなビールがクリアな味わいに仕上がりやすく、柔らかく滑らかな口当たりを生み出します。

ミネラル成分の役割について

・カルシウム:pH値を安定させ、酵母の発酵をサポートします。
・マグネシウム:酵母にとって必要な成分で、適量であれば発酵を促し、微細な苦味をもたらしますが、過剰な量は苦味が増す原因に。
・ナトリウム:ビールにまろやかさを加え、味を調整します。
・硫酸塩:ホップの苦味を強調し、ペールエールやIPAのようなビールで重要です。
・炭酸塩:水のアルカリ性を増加させ、麦芽の甘味が強調される効果を持ちます。

水質によるビールの種類の違い

ビールのスタイルは歴史的にその地域ごとの水質によって大きく分かれてきました。世界中の主要なビールスタイルには、地域特有の水質が影響を与えています。

ピルゼン(チェコ)

ピルゼンは極めて軟水であるため、柔らかな飲み心地で苦味が抑えられたピルスナーが生まれました。透明感があり、スムーズで軽い味わいが特徴です。

バートン・オン・トレント(イギリス)

バートンの水は硬水で、硫酸塩が豊富に含まれます。これによりホップの苦味が強調され、香り高いIPAが生まれました。

ミュンヘン(ドイツ)

硬水のカルシウムが豊富で、バランスが取れたしっかりとした味わいのラガーが特徴です。

このように、地域の水質が生む特徴はビールの味やスタイルの個性に反映されており、ビール愛好家にとってはそれぞれのビールスタイルの魅力が地域の風土や歴史ともリンクしています。

近代の水処理技術によるスタイル再現

現代のビール醸造では、地域の水に依存せずとも様々なスタイルのビールを生産するため、以下のような水質調整技術が用いられています。

逆浸透膜(RO)システム

水から全てのミネラルを除去して純水にし、その後必要なミネラルを加えて理想的な水質を再現できます。これにより、どの地域でも特定のビールスタイルを模倣することが可能です。

イオン交換

硬水を軟水に変える処理で、カルシウムやマグネシウムなどの成分を取り除き、柔らかな水に仕上げる技術です。

ミネラルの添加

醸造過程でカルシウム、ナトリウム、硫酸塩、炭酸塩などを加え、スタイルに応じた水質を作り上げます。

水のpH値の管理とビールの品質

水のpHはビールの製造過程でも重要で、酵母の活動やビールの香味に影響を与えます。
理想的な範囲はpH5.2〜5.5で、この範囲で酵母が効率よく活動し、発酵が進みます。酸度の調整によってホップの苦味が引き立ち、バランスの取れた味わいが生まれるため、醸造家はpHの調整を丁寧に行っています。

まとめ

ビールにおける水の質は、ビールのスタイルや味に深い影響を与える重要な要素です。カルシウムや硫酸塩、炭酸塩など水に含まれるミネラル成分や、pH値、硬度がビールの最終的な風味を決定します。
地域ごとの水質が醸造家にとっては挑戦と創造の源であり、世界各地のビールスタイルは、水質によって特徴付けられてきたのです。