地震や台風など自然災害の多い昨今では、ライフラインが途絶えたときの防災用として井戸が再評価されています。また、日頃から生活用水として利用しているご家庭も増えており、なかにはガーデニングなどで使われる方もいらっしゃいます。
しかし、その一方で井戸のことをあまり知らない人にとっては「井戸って本当に便利なの?」と感じている方も多いのではないでしょうか?

そこで、今回はこれから井戸水を利用してみたいという方に向けて、改めて井戸の仕組みや安全性などについてご紹介します。

防災井戸として近年注目の「手押しポンプ」の仕組み

現在の井戸は、昔ながらの桶を使って水を汲み上げる井戸とは異なり、一般的に「手押しポンプ」というタイプのものが主に使われています。電力が不要のため、災害時でも使用できる点がメリットです。

手押しポンプの仕組みについては、コップの中に入っているジュースをストローで飲むときを思い出してみてください。ストローで吸うと簡単にジュースが口まで上ってくるところをイメージしていただけることと思います。

コップの中に入っているジュースは、ストローで吸うことによって気圧がかかり、上から押されている状態となります。気圧の大きさは空気量に比例しますが、ストローで飲み物を吸うことで、ストロー内の空気は減少し真空状態が作られます。この働きを利用して、ジュースはストローを通り口にまで上ってくるのです。

そして手押しポンプも、簡単にいえばこのストローで吸うとジュースが口まで上ってくる原理を利用しています。

井戸にはさまざまな種類がある?

井戸には実はさまざまな種類があります。それぞれ特徴があるため、より深く理解するためにもチェックしてみましょう。

堀り抜き井戸

掘り抜き井戸は、時代劇などでよくみる昔ながらの井戸です。地中深くまで穴を掘り、湧き出た地下水をバケツなどで汲み上げるタイプとなっています。掘り抜き井戸は、直径60cm、深さ6m程度のものが主流ですが、土の性質によっては15m前後まで掘られているものもあります。
直径や深さを調整することで、希望通りの水量を確保しやすい点がメリットといえるでしょう。

打ち込み井戸

打ち込み井戸は、別名で「打ち抜き井戸」とも呼ばれる井戸で、地中に打ち込んだパイプで地下水を吸い上げます。
掘る場所の広さに影響されず、狭い所でも掘れるのがメリットです。大きな工事も不要で、掘る際の砂利や土の量も多くありません。
ただし井戸掘り作業の負担は少ない反面、水量が少ないことがデメリットでもあります。

井側井戸

井側井戸は、手掘りで作るタイプの井戸です。浅い層の地下水を円筒状のコンクリートを使い、中に集めて溜め込みます。この円筒状のコンクリートが井側と呼ばれています。地下水などを溜められますので、水量が少なく水不足になることが多い地域や季節に重宝されています。

ボーリング井戸

ボーリング井戸は、掘削機(ボーリングマシン)で岩盤などを掘り、地中の深い場所にある地下水を汲み上げられるようにした井戸です。
人力では掘れない岩盤でも関係なく、井戸の中でも一番水量や水質などを確保できる点がメリットとなっています。

井戸水として利用する地下水が発生するメカニズム

井戸水として汲み上げられる水は地下水ですが、地中の何もないところで自然発生的に生まれるものではありません。自然のメカニズムが働いています。
地下水は、元々は雨で、空気中のホコリやチリ、二酸化炭素が含まれることで雨水は弱酸性となります。
雨が地面に落ちると土の中に染みますが、土中には岩などの隙間があり、雨はそこを通り過ぎてろ過されていき、その過程で土や岩の成分の作用を受けて徐々に酸性が和らぎます。

そして、地中深くには風化した岩石や砂などがありますので、その層に到達した水分がろ過されていき、さらに下層にある岩石の隙間を通り過ぎていきます。そのときに岩石の成分が水分に溶けて入り込み、地下水となります。

このように、私たちは自然のメカニズムの働きによってできた地下水を井戸水として利用しているのです。

井戸水は飲んでも大丈夫?

井戸水は飲んでも大丈夫?
井戸水は、主に浅井戸水と深井戸水に分けられます。そのなかでも、地下水である井戸水を、飲料水として安全に飲めるのは深井戸水です。

浅井戸は一般的には地下8〜10m程度の深さの井戸水ですが、地表からの距離が浅いためにどうしても不純物や細菌など、さまざまな物質の影響を受けやすいのです。そのため浅井戸水は飲料水ではなく、主に農業用水などで使われることが多いようです。

そして深井戸水は、10〜30mほど掘った深い部分の地下水であるため、地表の影響をあまり受けません。一般的に市販されているナチュラルミネラルウォーターには、この深井戸水が使われています。

井戸を安全に使用するためのポイント

井戸を利用する際は、安全性を確保し続けなければなりません。万が一病原菌などに感染した場合、大きなトラブルに発展するからです。
そのためには年1回程度を目安に、保健所などに依頼して水質検査をしっかり実施する必要があります。

水質検査の際には、井戸水の周辺環境もチェックしておきましょう。例えば、汲取式のトイレなどを利用している場合は雑菌を繁殖させる原因となるため、井戸水に悪影響を与えるリスクが高いからです。
そのほかにも、人間が物を投げ込むなどいたずらをする可能性もゼロではありません。日頃から井戸を使うとき以外は柵をしておくなどの配慮も必要です。

また、水質などに問題を感じたらすぐに保健所に連絡しましょう。日常的に注意することで、井戸水の安全性は保たれるのです。

まとめ

井戸は災害時など、ライフラインの確保が難しい場合の生活用水として利用できます。さらに飲料水としても使える水質なら、毎月の水道代を安くできるという利点もあります。とはいえ、井戸水を正しく活用するにはその仕組みを知り、安全性にもしっかり気を配ることが大切です。

これから井戸水を利用してみたいという方は、今回ご紹介した井戸の仕組みなどをぜひ参考にしてみてくださいね。