日本には全国に数多くの井戸がありますが、そのなかでもクオリティ面で一線を画すのは水が「名水」と認定されている井戸です。
このような井戸の水は質や味もさることながら、周囲の環境や歴史的価値といった面でも高く評価されているため観光スポットとしても人気が高く、毎日多くの人が水を汲みに訪れる井戸も少なくありません。

そこで今回は、名水とされている井戸のなかでも水質と美味しさに定評があり、歴史的価値や知名度も高い井戸をご紹介します。

染井の井戸(京都府京都市)

京都府京都市、梨木神社の境内にある染井の井戸の水は京都三名水の一つです。平安貴族の衣類を染める際に使われていた水といわれ、その歴史は1000年以上。
三名水の他の二基(左女牛井と縣井)はすでに枯れてしまったため、現存しているのはこの染井の井戸のみであり、いかに歴史的価値が高いかがわかります。

味は甘くまろやかなためお茶や造酒に適しており、現在でも多くの地元市民がペットボトルやポリタンクを手に水を汲みにやってきます。
また、井戸の隣の茶室では染井の井戸を保護する団体「染井会」による定期的な茶会が開催されており、井戸の水でお茶を点てることがあるそう。
1000年続く井戸の背景にあるものは、人々の自然と歴史への理解・敬意なのかもしれません。

加賀野八幡神社井戸(岐阜県大垣市)

加賀野八幡神社井戸は「水の都」と呼ばれる岐阜県大垣市にある井戸です。
この井戸が最初に掘られたのは明治7年といわれていますが、現存するのは昭和63年に掘り直し作業が行われたときのものなので、長い歴史の割には比較的新しい造りのように見えます。

地下約136メートルから豊富に湧き出る水の水質は極めて高く、きれいな水にしか生息しない「ハリヨ」という希少種の淡水魚が元気に泳げるほど。
さらに、大垣市を代表する湧き水スポットとして、環境省の「平成の名水百選」にも選定されています。

井戸の周辺は安産の神様をまつる加賀野八幡神社や大垣城などの観光スポットもあるため、休日には遠方から訪れる観光客も多く、持参したペットボトルに水を入れて持ち帰る方もいらっしゃいます。

大垣市にはこのほかにもたくさんの湧き水スポットがあるので、名水めぐりに興味がある方は大垣市の公式ホームページにある「わくわく湧き水マップ」をご覧ください。

不老水(福岡県福岡市)

福岡県福岡市の香椎宮は724年に創建された大変歴史のある神社ですが、その境内の裏手には古くから名水として知られる「不老水(ふろうすい)」を汲める井戸があります。

不老水は仲哀天皇と神功皇后(4世紀頃)に献上された水としても有名で、この水を献上した当時の大臣・武内宿禰(たけしうちのすくね)はこの水を飲んで300歳まで生きたという言い伝えも。不老水という名称の由来はここからきています。

1985年には名水百選に認定され、多くの人々から愛されてきましたが、残念ながら最近は水量が減少傾向に。
現在は一家族あたり4リットルまでの給水制限が実施されています。

不老水の味わいは「まろやか」そのもので、香椎宮周辺の蕎麦店では不老水で作った蕎麦を出す店もあります。
興味のある方は味わいの良さはもちろん、その歴史や伝説にも思いを馳せながら、名水の世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。

源智の井戸(長野県松本市)

源智の井戸
長野県松本市にある源智の井戸(げんちのいど)から汲める水は、水がきれいなことで知られる長野県のなかでも屈指の知名度を誇る名水です。
松本城主小笠原氏の家臣・河辺縫殿助源智が所有していたため、このような名前で呼ばれるようになりました。
松本市が城下町になる前から地域の飲用水として利用されており、現在でも多くの住民が水を汲みにやってきます。

明治天皇巡幸の際には御前水(飲用水や料理に使われる水)として使われたこともありました。
また、町全体で井戸の保全活動が行われていることもあり、周囲の清掃や環境整備も行き届いています。

各地の「名水」を楽しむ際の注意点

「名水」と呼ばれる水は水質の良い水であることが前提ですが、だからといって名水すべてがそのまま飲めるわけではありません。
「名水」という表現は「そのまま飲める水」という意味で使われているわけではないのです。

そのまま飲める水かどうか判断するためには、まずは井戸の管理者に尋ねるか、自治体や管理団体のホームページで「飲み水としての適性」「水質検査の結果」をチェックしてみましょう。
特に地域の観光地として自治体が積極的にアピールしている場合は、水質に関するデータが公開されている可能性があります。
水質検査の結果が公開されており、そのまま飲めるものであると判明すれば安心して楽しめるでしょう。

ただし、井戸水の場合は何らかの事情によって水質に変化が生じる可能性もゼロではありません。念のため、持ち帰った水は煮沸消毒してから飲むのがおすすめです。
なお、水質に関する情報が乏しい場合は飲むのを控えましょう。

まとめ

名水とされている井戸のなかでも水質と美味しさに定評があり、歴史的価値や知名度も高い井戸をご紹介しました。
日本はきれいな水の宝庫です。今回ご紹介した場所以外にも、美味しい水を楽しめるスポットはたくさんあります。

国内旅行を計画する際はぜひ、「ご当地名水めぐり」を組み込んでみてはいかがでしょうか。
井戸はその土地の生活様式や風習にも深く関わっていますから、そのあたりに目を向けてみるのもおすすめです。