日常生活の中で人が集まる場所として「井戸」は、かつて最もポピュラーな場所でした。今でもその名残として、世間話をすることを「井戸端会議」と言います。

井戸は生活や生命を支える水を供給する場所として、これまで大切にされてきた場所です。そのため、日本の文化や風習にも影響を与えてきました。

そこで、今回は井戸に関わる日本の文化や風習についてご紹介いたします。

邪気払いも! 井戸にまつわる風習・行事

まずは、井戸にまつわる日本で行われていた風習や行事をご紹介いたします。

・若水汲み

元旦の朝一番に、井戸から汲んだ水を神棚にお供えすることを言います。
若水には邪気を払う効果があると信じられているため、神棚に供えた後にそのお水を使って年神様への供物を作ったり、食事作りやお茶立てに利用する風習があります。

・井戸替え/井戸浚い(いどさらい)

深井戸の清掃のために行われます。井戸替えを行う時期は、お盆前の七夕や土用の日が多いようです。
江戸時代、江戸市中においては夏の年中行事として毎年7月7日に井戸を使う関係者らが協力しあいながら行われていました。

上下水道が発達した現代では、滅多に見られない光景になってしまったのかもしれませんが、日本人の信仰の深さや清潔好きが反映された風習・行事といえるのではないでしょうか。

井戸は時間や異空間を繋ぐ!?


水は人が生きていくためになくてはならないもの。水源となる井戸はとても大切な場所とされていました。

そのため、日本では神聖な場所として井戸神の「弥都波能売神(みづはのめのかみ、水神)」が祀られている井戸も数多く存在します。

また、井戸と黄泉の国が繋がっているという話もあります。
飛鳥時代に聖徳太子から遣隋使に任命されたことで有名な小野妹子(おののいもこ)の子孫で平安時代の小野篁(おののたかむら)は、毎夜冥界に行って閻魔大王の補佐役をしていたという話があります。

他に、井戸に幽霊が出るなどと噂されるのも黄泉の国と繋がっていると信じられていたからにほかなりません。

現代でも井戸は異なった時間や空間を繋ぐ場所として、漫画や映画などの題材として取り上げられることがあります。
井戸は今も昔も人々にとって畏怖と畏敬の念が向けられる、特別な場所であると言えるのかもしれません。

井戸は外国でも特別な場所

世界に目を向けると、世界最古の井戸は紀元前7000年頃(約9000年前)にシリア・アラブ共和国北東部にあるテル・セクル・アルアヘイマル遺跡に作られたとされています。

紀元前3500年前頃(約4500年前)の古代メソポタミア時代に書かれた「ギルガメシュ叙事詩」の中では、主人公であるギルガメシュは井戸(取水口)を通ってアプスー(地底の淡水の海)に行って若返りの草を得るとあります。

紀元前約2000年前(約4000年前)には、聖書にも信仰の父と呼ばれるアブラハムと、息子のイサクに関する話に井戸が登場しています。

これらのことから、世界のいたるところで古くから「井戸」が利用され、また特別な場所とされていたことが読み取れます。日本だけでなく外国でも井戸は特別な場所だといえそうです。

まとめ

井戸にまつわる風習や文化についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
地下に向かって深く掘られた井戸は、生活のために必要な水を供給してくれる場所として大切な場所であると同時に、昔も今も異世界に移動したり時空を超えるなどの想像や憧れ、畏れを抱かせる不思議な場所なのかもしれませんね。

近隣に井戸がある方は、そこからどんなイメージが湧くか考えてみてはいかがでしょうか。