井戸は昔から人々の暮らしと密接な関係にあり、江戸時代には「水道井戸」あるいは「水道桝(ます)」と呼ばれて江戸に住む人々から親しまれていました。その中でも、年に一度行なわれていた井戸にまつわる行事が歌舞伎の題材にもなっていることをご存知でしょうか?

今回は江戸時代に行なわれていた行事、「井戸替え(さらえ)」についてご紹介いたします。

江戸の一大イベント?! 「井戸替え(さらえ)」とは

江戸の町では、年に1回夏場に「井戸替え(さらえ)」と呼ばれる井戸の大掃除が行なわれ、井戸の水を汲み出して壁面を洗ったり、底にたまった泥や汚れなどを掃除してキレイにしていました。

江戸の庶民の住居として定番の「長屋」では、大家さんが中心になって住人全員で井戸の掃除に取り掛かっていたそうです。そして、掃除が終了すると井戸の神様にお供物を捧げて、作業を行なった人たちにはお酒が振舞われるという一大イベントでした。

井戸替え(さらえ)が夏に行なわれていた理由は、夏は井戸の中を掃除して全身びしょ濡れになっても体調を崩しにくいためだったといわれています。

「井戸替え(さらえ)」を題材にした歌舞伎


日本の伝統芸能である歌舞伎では、井戸替え(さらえ)が登場する「権三と助十(ごんざとすけじゅう)」という有名な演目があります。

「権三と助十(ごんざとすけじゅう)」は、江戸の神田橋本町の裏長屋に暮らす駕籠(かご)かきの権三が井戸替え(さらえ)の手伝いに出てこないために相棒である助十と喧嘩が始まるという作品で、小気味よいテンポでやり取りが行なわれるコメディタッチの演目です。

こうした江戸時代の人々の暮らしを題材にした演目を見ると、井戸が当時の人々から親しまれ重要な位置を占めていたことがよく分かりますね。

まとめ

江戸時代に行なわれ、歌舞伎の題材にもなっている行事「井戸替え(さらえ)」についてご紹介しました。
井戸を大掃除する年に一度の行事が歌舞伎の題材になるほど、江戸の人々にとって井戸は身近で特別な存在だったことがお分かりいただけたのではないでしょうか?

「権三と助十(ごんざとすけじゅう)」は、現在でも劇場などで鑑賞できますので機会があればぜひ足を運んでみてください。
また、江戸時代に活躍していた水道については井戸ポンプ情報局で、過去にも取り上げていますのでそちらもぜひご覧ください。(江戸時代に水道が使われていた?! )