「海の水は塩辛いもの、だから飲んではいけない」というのは、幼い子どもから大人まで多くの人が知っている「常識」と言って良いでしょう。とはいえ、「なぜ駄目なのか?」とあらためて問われると「いったいなぜだろう…」と戸惑う方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、海の水を飲んではいけない理由をわかりやすく解説します。水に関する知識を深めてみてください。

海の水を飲んではいけない最大の理由は「塩分濃度」

海の水を飲んではいけない理由は、「飲めば飲むほど喉が渇いてしまうから」です。「水を飲んでいるのに、いったいなぜ?」と不思議に思ってしまいますが、その原因は海水に含まれている「塩分」にあります。

人の体液の塩分濃度は約0.9%です。体内の水分が失われ熱中症になってしまった際に、水分だけでなく塩分も一緒に補給するように言われるのはこのため。体液と同じ塩分濃度の水分を補給すれば、体内のバランスを適切に保ちやすくなります。一方で、海水の塩分濃度は約3.5%。人の体液と比較すると非常に濃いことがわかります。

では、体液よりも塩分濃度の濃い水分を摂取するといったいどのような事態に陥るのでしょうか。
海水を飲み体内の塩分濃度が上昇すると、塩分濃度を薄めるため脳がさらに水分を摂取するよう命令します。つまり、海水を飲めば飲むほど喉が渇いてしまうのです。
脳からの命令に従って海水を飲み続けた場合、さらにひどい症状が出てきてしまいます。塩分濃度を薄めるために、細胞からどんどん水分が失われてしまうでしょう。すると、脱水症状を起こしてしまいます。腎臓に負担がかかり正常に機能しなくなれば、最悪の場合、死に至る可能性もあります。

私たちにとって「塩」は身近なものですが、大量に摂取すればリスクも大きい物質です。もちろん、大量の塩が含まれている海水にも注意する必要があるでしょう。その仕組みについて頭に入れた上で「喉が渇いても海水は飲まない」と判断するのがおすすめです。

塩分以外のリスクとは?

海水を飲んではいけない理由は、実は塩分だけではありません。海水が汚染されていれば人体に有害な微生物や細菌を取り込んでしまうリスクがあるでしょう。

もし、摂取した海水中に大腸菌が多く含まれていたら、食中毒を引き起こす可能性もあります。広大な海には私たちの目には見えないリスクも多く潜んでいます。
たとえ塩分の問題を回避できたとしてもそのまま口にするのはやめておきましょう。

大量の海水を飲んでしまった場合の対処法

海水を飲むのは良くないと知っていても、状況によっては大量の海水を飲み込んでしまうこともあるでしょう。こんなときのため、対処法についてもぜひ頭に入れておいてください。

大量の海水を飲んでしまった場合には、まず体内の塩分濃度を下げましょう。できるだけ早急に適切な処置を取る必要があるでしょう。素人でも実践できるのは「飲み込んだ海水をできるだけ吐かせる」もしくは「たくさんの水を飲ませて、塩分排出を促す」という処置方法です。

1リットルの海水を飲んでしまった場合、体内の塩分濃度を下げるために約1.35Lもの水分を尿や汗で排出する必要があると言われています。つまり、これ以上の水分を摂取させる必要があるということです。
海水を飲んでしまった人がすでにぐったりとしている場合、大量の水を摂取させる方法は非現実的なもの。現場でできる限りの処置をした上で病院に連絡しましょう。専門家による素早い処置が必要です。

海の水を飲む方法は?

海の水を飲む方法は?
「海水を飲むと人体に危険」とわかっていても、海水以外に飲み物がない場合はどう対処すれば良いのでしょうか。以下の手順で海水から真水のみを取り出せる可能性があります。

まずは鍋に入れた海水を沸かしましょう。すると、水面から湯気が立ち始めます。この湯気を袋や容器に集めて冷やしてください。海水を蒸発させて得られた空気に含まれているのは真水です。それを冷やして液化すれば、少量ずつですが確実に飲み水を確保できます。
しかし、作った水に消毒成分は含まれていませんから、雑菌が繁殖しないうちに飲み切る必要があるでしょう。
また、海水を冷やして氷にすると塩分を含まない水だけが氷になります。凍った部分だけを取り出して溶かせば、飲み水を得られるでしょう。ただし、塩分以外の微生物や細菌リスクについても忘れないでください。

ろ過によって海水を淡水に変化させる技術はまだ実用化されていません。もし実用化されれば水不足で悩む地域を助ける画期的な技術となるでしょう。今後の開発状況にもぜひ注目してみてください。

私たちが飲める水はごく限られているという現実

地球上にはたくさんの水がありますが、そのほとんどは海水であり私たち人間が口にすることはできません。私たちが口にできる淡水の割合は、井戸水を含め全体のわずか2.5%ほどだと言われています。しかもこの2.5%の中には北極や南極の氷や雪が含まれています。

水道水や井戸水が豊富な日本において水不足を実感する機会はごく限られていますが、実は非常に貴重な水を使っていると言えるでしょう。海水を飲めない理由や人体に与えるリスクについて知ってみると、あらためて水を大切にするべき理由が見えてくるのではないでしょうか?